東京ストラディバリウスフェスティバル2018

FRIENDS Vol. 004松下敏幸 Toshiyuki Matsushita

弦楽器製作者 Violin maker

Antonio Stradivari。当時の彼の芸術家としての評価を知る貴重な資料として、クレモナ、聖シズモンド教会の神父が書いた紹介状の一遍の書簡があります。

〈私の親愛なる友人、マエストロ弦楽器製作者アントニオ・ストラディヴァリは、あらゆる点において繊細で精密な象眼を入れた楽器を製作し、それは高貴で素晴しい芸術品である〉 これが書かれたのは1720年、まさにストラディヴァリの黄金期と呼ばれる時代でした。

ストラディヴァリの銘器は、年月が経ったから良くなったのではありません。もちろん、時がもたらした魔法もあるでしょうが、誕生と同時にそれは完璧な形を持ち、産声から、既に上質な煌めきを放っていたはずなのです。彼はその生涯で、11挺の美しい象眼細工の施された楽器を製作しており、博物館にはその際に使用されたと思われる動物・鶏・草花 のデザイン画が残されています。また、羊皮紙のf字孔の図面を見ると、彼が職人の領域を越え、幾何学にも通じていた芸術家であったとも理解できます。

今回私たちは、 世界から賢明な収集家と世界的名演奏家によって大切に伝えられた21挺のストラディヴァリウスが展示される贅沢な機会を与えられました。ストラディヴァリウスの 楽器は、その魅力ゆえ、時に人々に翻弄され、時 に人々を翻弄しながら、数百年という歴史を生き抜いてきました。

今日残る楽器の一台一台には、それぞれの運命とも言える物語があります。時は永遠の距離を保ち続け、近づくことも超えることもできません。しかし、これらが奏でられる時、私たちは、その音色からヴァイオリンと云う小さな箱 の中に閉じ込められた高い技術、人間の栄枯盛衰、悲哀や歓喜を聴き取ることができます。

これこそ、同じく弦楽器製作者としてこの道を生きる、私の感じるアントニオ・ストラディヴァリの魅力であると言えます。